ローマで祝日
スペイン サンティアゴを出発してちょうど70日目。
8月27日早朝、巡礼最終目的地であるローマ市内のバチカン市国に着く。
イタリアの首都と言うことでパリのように侵入に苦労するかと思っていたのだが、
ローマの環状道は地下を通っていたことと、侵入が明け方早朝で道ががらがらだったためにあっさりと中心部についてしまった。
最後にしては、大分拍子抜けだ。
とりあえず、ゴール
・・・・なのだけど、なぜだか感動も達成感も全く湧いてこない。
数千㎞の道程を越えてきたにも関わらず、ただ「着いた」という事実を坦々と受け入れる自分に自分で疑問を抱いた。
モン・サン・ミッシェルに辿り着いたときや、アルプスを越えたときは心の底から喜べたのだから、ゴールまで来たらそれ以上のなにかが込み上げてくると思っていたのだけどな。
どうした、自分?
数百メートル先にゴールの聖地を眺めながら、自分の中の疑問が拭えないでいた。
なんにせよまだ時間が早いので、一旦バチカン市国を離れる。
入場が始まるまで時間があるので、それまでローマ市内の観光と宿の確保をすることにした。
バチカン市国の広場からまっすぐ進むとぶつかるのがサンタンジェロ城
元々は霊廟だったが、後に要塞化。
バチカン市国からの近さもあって、有事の際はローマ教皇の避難所として活躍したらしい。
そのため、バチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂とは地下道で繋がってるという噂があったり、城の名前が日本語に直すと「聖天使城」だったりと、ロマン溢れる話には事欠かないお城。
城の前の橋には10体の聖天使が並ぶ
サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂
かつてローマ教皇が隣接した宮殿に住んでおり、ローマでもっとも格の高い教会として扱われた。
そのためやたらとでっかい。
カテドラル(司教座のある聖堂)なので、巡礼地の1つ。
ローマの代名詞「真実の口」を展示しているサンタ・マリア・イン・コスメディン教会は、街の中心部から大分南に外れたところにある。
目立ちづらい所にあるので、人気のない時間に行くと発見が難しい。
かといって教会の開いている時間帯に行くと、これのみ目当ての観光客で周辺がごった返すためそれはそれで対面が難しい。
多分世界一有名なマンホールの蓋。
11時、あらかた市内の観光終了。
宿泊施設はやはり有名観光地だけあってどこも混雑していたが、無事なんとかテルミニ駅周辺に宿をとることができた。
これであとはバチカン市国に行くだけ。
大聖堂でゴールの証明に、巡礼手帳にスタンプを貰うだけだ。
それと、もう1つ。
以前から決めていたのだが、自転車もバチカン市国の人へ譲り渡すことにした。
貰ってくれるかどうかは不明だが、一応キリスト教の聖地で購入し、いくつもの聖域を巡り聖地へと旅して来た自転車。
キリスト教徒の人にとっては、きっと縁起のよい聖なる自転車と映るに違いない!・・・と、思う。
まぁ、なんにせよ個人的には思い入れのとても強い自転車。
郵送の余裕がない以上この街でお別れせざるおえないのだが、それならば粗大ごみとなったり中古屋に流すよりも、誰か顔の見える人に末長く可愛がって貰いたいというのが人情というもの。
価値を理解してくれる、情の深い人に貰ってもらえると嬉しい。
そんなことを思いながら、人にあげる前に最後のメンテナンス。
荷物を積み込むために大分荷台を改造していたので、それらの余分なパーツを取り外すために手をかける
・・・が、
外れない。
いや、外せない。
頭が考える作業とは裏腹に、全く手に力が入らないのだ。
自分の意思に反するように
いや、まるで自分の本当の意思を写し出すかのように
ここに来て、やっと朝の違和感の正体が、
自分が本当はどうしたいのかが分かった
終わりたくない
余力を残したまま、時間を残したまま
こんなところでゴールにしたくない。
まだ行ける
だからもっと先へ行こう
身体中が、自転車が、叫んでいるのが聞こえた。
悩んだ末自分が出した結論は、否
意に反し、ここで自転車を手放しチャリ旅を終える事にした。
気持ちを圧し殺した理由は、時間、資金、季節、その他いくつかあるのだけれど、一番大きいのは自分の性格だ。
聖地 バチカン市国がゴールとして納得できないなら、どこなら納得できるか?
日本
そう考えたとき、自分の中で即答で答えが出た。
そして、自分は決めたらやる。
間違いなく、やる。
いくらかかろうが、何年かかろうが、途中の道のりがいくら治安が悪かろうが
最悪途中で野垂れ死ぬ事になろうが
間違いなく、挑む。
嬉々として
あまりにもリスクが高い
だから涙を飲んででも、ここで終わりにしておく事にした。
いつか後悔するかもしれないが、この選択が間違いでなかったと信じたい。
そう思いながら、道端の水道で、最後に自転車を労るように洗った。
再度バチカン市国へ向かう。
バチカン市国は、言わずと知れた世界最小の国である。
そのサイズはディ○ニーシーより小さいながら、ローマ教皇が住まうカトリック教総本山として国自体がキリスト教3大聖地に数えられ、世界中の教徒が集う神聖な土地となっている。
(あと2つは、スペインのサンティアゴとイスラエルのエルサレム)
また国自体が世界遺産にも登録されているため、世界中の観光客が集う土地でもある。
そう、観光客が。
サン・ピエトロ大聖堂入場待ちの行列
うじゃあ
分かっちゃいたけど人、人、人
キリスト教の聖地とはいえ、そこにサンティアゴや教会のような厳かさ、謹み深さ等は一切無く
あるのは記念写真を撮ろうと必死に先を急ぐ観光客達と、そんな観光客を下手なところに侵入させまいと要所を守る衛兵達の殺伐とした空気だけである。
え?俺の聖地巡礼の旅、こんなところで終わるの??
もんのすごく帰りたくなってきた。
一応断っておくと自分はキリスト教徒ではないが、この聖地巡礼の旅をするに辺りお世話になった教会に対しては最大限の敬意を払ってきたつもりである。
当然のルールとして教会内では、無闇に肌を見せず、騒がず、写真を撮らず。
祈る人の邪魔はせず、厳かな気持ちを忘れず粛々と礼節をもって巡ってきた・・・のだけど。
パシャパシャ‼
わいわいガヤガヤ‼!
へーいヘーイ‼
・・・神聖さも厳かさも欠片もない(泣)
とりあえず目の前の韓国人カップル、この行列の中で日傘を振り回すのはやめてもらっていいだろうか? 目に刺さりそうで怖い。
厳しい荷物検査を通ったあとは、バチカン市国メインのサン・ピエトロ大聖堂へ入場する。
ここは撮影可だったので1枚だけ中を撮らせてもらい、その後最奥で最後の祈りを捧げた。
これで、よし。
やることは全部やった。
あとは巡礼手帳にスタンプを貰えば、その瞬間が自分の巡礼のゴールだ。
これまでの旅路に想いを馳せながら、スタッフに巡礼スタンプの場所を尋ねる。
と
「え、なにそれ?」
・・・
え?
聖地のスタッフが、聖地巡礼の存在を知らない・・・だと?
かなりの驚きである。
通常ヨーロッパの巡礼地に指定されているカテドラルでは、どんな教会でも巡礼手帳を見せただけで事情を察してもらえるのが普通なのだけど・・・
その総本山にてゴール地点のスタッフ、存在を知らず。
しかもこれが一人だけではないうえに、その後あっちに行け、こっちに行けと高圧的な態度でたらい回しにされるのだから流石に腹がたってきた。
知らないならせめて素直に知らないって言ってほしい
バチカン市国の安全は、伝統としてスイス人衛兵が守っている
印象に残るその服装はミケランジェロ考案なんだとか。
たらい回しにされ続けて1時間後。
何故だか観光客の行列に並ばされたあげく、気づけば傾いた螺旋階段を上へ、上へと上がらされていた。
うん、間違いなくこの先にスタンプは無いよな。
分かりきってはいるが道が狭くて一方通行な上、足の置き場も無いほどに混雑してるとなれば流されるままに進むしかない。
どこに着くのか分からないが、とりあえず空気が吸いたい。
自由という名の空気が吸いたい
人工過密地域とか普段とギャップがありすぎて酔うんだって・・・(泣)
で、着いたのは写真中央塔天辺のサン・ピエトロ大聖堂頂上部。
眼下にはサン・ピエトロ広場。その先にはサンタンジェロ城が見える。
ローマを一望できる景色は確かに素晴らしい・・・のだけれども
どう考えても求めていたものではないよな、これ。
そして僅かな滞在時間の後、チューブに押し込まれた点滴のごとく後続に追いやられ、すし詰めで再度細くて長い通路を下らされるのだった。
ああ、この登り降りだけで病気になりそう・・・(泣)
さらに一時間後に衝撃の事実。
巡礼オフィスがバチカン市国の目の前。要は国外にあることが発覚。
最後のスタンプは大聖堂ではなく、そちらの事務所で押して貰ってとのこと。
さんざん振り回されたあげく、旅のゴールが国外??
・・・はぁ
なんか疲れすぎてどうでも良くなってきた。
あまりにも残念な結末だが、これも1つの巡礼の形なのだろう。
粛々と受け入れ事務所を尋ねる事にした。
巡礼事務所
一見分かりづらいが、よく見ると「ペレグリーノ(巡礼者)」と書いてある。
受け付けにいって、おねーさんにスタンプくださいと一言。
これでポンっと押してもらって旅も終わりかと、やるせなさに耐えながら巡礼手帳を渡すと、受け取ったおねーさんの表情が・・・
一瞬で、変化した。
手帳を見て目を見開き、そのまま食い入るように真偽を確かめている。
その顔からはありありと、信じられないといったような驚きの感情があふれでていた。
彼女は一瞬で、自分の旅がどんなものだったかを理解してくれたのだ。
そして彼女は声をあげる。
「みんな、見て! この人スペインからアルプスを越えてやって来たのよ‼」
スタッフ一同それを聞いて大騒ぎ。
皆で自分の事を褒め称えてくれ、貰えないと思っていた巡礼証明書も発行してくれた。
嬉しい。
何よりも、自分の旅の価値を正しく理解してくれたの事が嬉しい。
今日1日空っぽだった心が、やっと満たされた気がした。
70日に渡る自転車の旅は、ここで幕を閉じる。
しかし世界一周の旅はまだまだ続くし、これからも多彩な国が無数に目白押しである。
ただそんな中、もしまた機会を見つけれたのならば
そのときは再度、ペダルを踏み出してみようと思う。
それまでに、ついた筋肉が贅肉に変わらないよう気を付けなきゃなぁ・・・
せっかくなので、そのまま事務所に自転車の相談を持ちかける
ちょうど欲しいという人がいたので、巡礼事務所に勤めるタウロ君(20)に無償で譲り渡す事にした。
どうか最後まで大切に使ってやって欲しい。
自転車を譲り渡すと、お礼にとタウロはビールとピザを奢ってくれた
バチカン市国の日陰に腰掛け、巡礼証明書を眺めながら一杯。
美味い
気のせいだと思うが、ちょっと格別な味がした。
ボロボロになりながらも、最後まで付き合ってくれた巡礼手帳
見た目は小汚ないが、自分にとっては大切な誇りだ。
・・・しかし後日、実家へ送る荷物に混ぜた際、巡礼証明書やその他の荷物と共にその消息が途絶える。
・・・僕の誇りは、今も世界のどこかを漂っています。
背面コイン投げ会場、トレヴィの泉は残念ながら絶賛改修中
あ、ここ車のCMで見た気がする
スペイン広場にて、謎の男に突如腕にミサンガを巻かれる。
男は頼んでもないのにサービスだからと笑顔で巻き付け、簡単にほどけないようきつく縛ったタイミングでサービス料を寄越せと態度を豹変させた。
が、まぁイタリアでは珍しいけど他国ではよくある王道な詐欺パターンなワケで。
サービスって言ったよね?ありがとうイタリア人大好きじゃあねチャオ アディオス‼ すたこらさっさー
と、相手が面食らってるうちにとっとと歩き去る。
向こうも追ってきたが、こちらに払う気がないと分かると渋々引き返していった。
こちらの勝ち。
タダで手に入れたミサンガに気を良くするも、すぐにこれが騙された人が着けるバカの証明書の役割もしてることに気がつき、早々に噛みちぎった。
イタリアにお越しの際は、スペイン広場周辺は達の悪いのが出るので注意されたし。
路上の売店で堂々とこんなパンツが販売できるのは、ローマならでは
バチカン市国、サン・ピエトロ広場にて
70日間付き合ってくれた相棒と
道中に出会った全てに感謝を込めて。
次回、アドリア海を越えます。
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